「嘘だろう」

それでもそうつぶやかずにはいられなかった

小さく肩を震わせる結衣の母親、その肩をそっとだく父親

その向かい側に座って、ただただ、「手術中」のランプが消えるのを待った

いったいどれくらい待ったのか

とても長く、嫌なほどゆっくりと流れたように思う

音もなく消える「手術中」のランプ

少しして銀色のドアが開く

からからと音を立てて運び出されるベッドとその上の結衣

何本もの管につながれ、とても痛々しかった

「結衣は、助かったんですか」

そう聞いたのは誰だっただろう

「一命は取り留めましたが、まだ安心はできません」

そう断言した医師の漆黒の瞳がとても印象的だった

でも、とりあえず結衣は生きている

それが、そのことだけがあの時の北河を現実世界に繋ぎ止めていてくれたように思う