「…、ずるいですよ、北河さんは。今はって期待しちゃうじゃないですか。いつかって思っちゃうじゃないですか」

小さな肩が震える

その肩を抱くことはできない

慰めることは、優しさを与えることは、逆に残酷だと北河が一番よくわかっているから



「はあ」

ため息をつくとしあわせが逃げるわよ

そうあの顔なじみの女医に言われたな、とため息をついてから思う

思わせぶりなことをするくらいなら、はっきりとすっぱりと断ってしまった方がいいだろうと

奈々絵に結衣のことを話したけれど

奈々絵の涙と「幸せなんですか?」という言葉が強く残っている

「…幸せっか」

自分の幸せはいったいなんだろう

今、幸せかと言われれば、頷くことはできない

結衣が隣に居た時の方がはるかに幸せだから

せっかく気持ちを新たにしたというのに一つの言葉にまた迷っている自分が居る

本当にこれでいいのかと

自分は、結衣を待っているのではなく、ただと捕われているだけではないのかと