「おいおい、金曜日夜独り、これ以上に哀しいことがあるか?」

「今日は予定があるんだよ」

「北河に?金曜夜に予定?まさかの?」

からかい交じりに身を乗り出してくる智樹に少々いらっとしつつ、静かな視線を投げかける

「水川、お前うるさい」

すぱっと言い切って話を終わらせる

これ以上彼に付き合っているのは時間の無駄だ

時間は巻き戻せはしないのだから


終業のベルが鳴り、ぱたぱたと帰り支度をし始める

次々と「お疲れ様です」という声が響き、

人が一人、また一人と減っていく

その中で北河裕もまたパソコンの電源を落とし、

椅子から立ち上がった

「北河さん」

呼ばれて振り返ると水川智樹と何人かの若い社員の輪の中から

桜城奈々絵が近寄ってくるところだった

どうやらこの面子で飲みに行くらしい