「映画か…そういえば最近見てないな」

結衣が隣に居たころはよく見ていたのに

独りになったとたん映画を借りてみることも、ましてや映画館に行くこともなくなってしまった

「返事、少し待ってもらっていいかな」

予定とか確認したいし

そう静かに告げる北河に「はい!!」と嬉しそうに奈々絵が頷く



しんと静まりかえった病室

スーツ姿の北河は、今日も結衣の病室を訪れていた

結衣、そう呼びかけても彼女が答えないことはわかっている

それでもなぜか口にしてしまう

ふと視線を横に移すと結衣の右手に光るペアリングが目に入った

入社先が別の会社だったために北河が与えた男避けだ

右手薬指にぴったりとはまるそれを嬉しそうに見つめながら

「えー、大丈夫だよ。浮気なんてしないもん」

と表情とは裏腹にすねたようなことを口にしていた