その日、北河は行きつけのお店で机いっぱいに参考書やら文献やらを広げて

朝からずっとパソコンを叩いていた

時々ぱらぱらと紙をめくりながら

注文したカフェラテを口に含みながら

少しずつ動いて行く時計の針を気にも留めず

ただ黙々と机に向かっていた

そろそろカフェラテの氷が溶けて水っぽくなってきたと思っていた頃

「スズランの花言葉って知ってます?」

その言葉とともに目の前に置かれた新しいカフェラテ

視線を上げるとレトロな雰囲気の店に唯一いるアルバイトの子だった

何度か足を運んでいるし、

そんなに客席も多くないことからたぶんお互いに顔見知り

でも、これと言って話をするわけではない

そんな関係を破ったのは彼女の方だった

「えっと…」

目の前に置かれた注文もしていないカフェラテと彼女の言葉に動揺する北河に

「サービスです。水っぽくなっちゃったでしょ?」

そう言って小さくはにかんだ