狗さん家での居候生活は平平凡凡で、何か刺激があるわけでもなく只管長閑なのんびりと時が流れるだけだったけど、でも幸せな日々だった。
趣味だというオンラインゲームのプレイを見せて貰ったり、好きなコレクションの話を聞いたり…。
勿論妙な行為に陥ることもなかった。
夜添い寝すると言っても別に何もなくて。
そして私の名前は琉卯のまま。
…敬語も、狗さんはやめていいと言ってくれたけどなんだかそれじゃなれなれしい気もしたのでそのまま。
「…あ、そうだ琉卯。今度鼡さんが来るからね」
一緒にショッピングした後ふと思い出すように狗さんが言った。
「はい、わかりました」
頷いて制服を脱ぐ。
……でかける時は流石にあの服はマズいだろうと、出かける間は制服で。
家の中ではあのエプロンドレスを身に着けていた。
鼡さん…って、どんな人なんだろう。
また動物名なのはあえて気にしないことにする。
…狗さんみたいに、いい人だと良いけど…。

…そんなこんなで鼡さんとやらが来る日曜日になった。
早起きして狗さんは部屋の掃除をしている。
昼頃来るらしいけど。
私は何もしないのもあれなので手伝おうと思ったのだけど、「一人でやったほうがはかどる」と言われ、やむなく私は大人しく待つことになった。
ちなみに…今日の服は、制服。
狗さん曰く、「今日はちゃんとした服でいようね」。
……そのわりには、狗さんの服装はよれよれのTシャツに腹のボタンが壊れそうな穴の開いたジーンズ。
…イコール、普段どおりの服装。
うーん…まぁ、でも。これから着替えるのかもしれないし。

「(……って着替えなかったよ)」
先程、チャイムの音がしていそいそと玄関に向かった狗さんは、やっぱりあの服装のままだった。
「……」
「…」
何やら話し声が聴こえる。
声からして相手…鼡さんはどうやら男の人みたい。
どういう人だか気になる…けどまぁ、狗さんの友人だし。
良い人に違いないんだろうから(確定的?)、そんなに気にすることないか。
「何だよ。お前の部屋相変わらず狭くて汚いのな」
軽く笑いながら鼡さんという人は部屋に入るなりそう言った。
第一声がソレなんて、なんと失礼な人だろうと思ったけれども、肝心の狗さんは何も言わないので私も無言。
「……で、このコが次のペット」
私を指差してペット呼ばわり…!
あんぐりと口を開けたまま私のほうに向けられた人差し指を茫然と見る。
「ち、違うよ鼡さん。ペットなんて僕そんな飼い方してないよ」
これには流石の狗さんも反論したみたいだけど。
「金払って買ったんじゃペットと同じだろ」
喉元でククッと笑って。
それまで目を隠していたサングラスを外し…こちらを値踏みするかのようにじっと見詰めてきた。
「………」
一つに纏めた黒い髪にルビーのような赤い瞳。
とりあえず言葉が通じているから同じ日本人らしいけど。
というか口調に合わず美形なのね、オニーサン。
……初めて見たかも、こんなに顔が整ってる人。
宇摩さんとは違う『美人』さ。
ちょっとばかし、見られるのが恥ずかしくて俯く自分がニクい。
「つーか、狗。お前俺があんな大金渡してやったのにこんな奴買ったのか?」
意外そうな声が聴こえたかと思えば。
「!」
知らず知らずのうちに顎が掴まれ上へと向かせられていた。