麦茶を飲みつつ、千幸の今後の勉強について話ていく。時々雑談を挟みながら。

(まだシャワー浴びれなさそう…)

「でも本当に良いのかい?月曜日から金曜日まで毎日見てくれるなんて」

「構いませんよ。自分も夏休みですし、課題はこちらに持ってきてやらせてもらいますから」

「はははっ、そっかっなら良いか!」

どうやら千幸の勉強のスケジュールは決まったらしい。
直ちゃんは千幸に、良かったなぁって言ってるし、お父さんも嬉しそうだし。
何より、勉強が苦手でいつも嫌々やってた千幸本人が河内先生を見て嬉しそうにしていた。

「今更…なんだけどさ、なんで急にカテキョしてもらう事になったの?」

きょとんとした皆の目が一斉にアタシを見つめる。
なんだかアタシが悪いみたいじゃない、なんでよ。

「今更って解ってるなら別に聞かなくて良くねぇ?説明が面倒臭い」

「ちょっと!面倒臭いって何よ!アタシは千幸の姉なの、知る権利くらいあるでしょっ!」

「あーはいはい」

こうやって直ちゃんはよくアタシに意地悪を言う。アタシの機嫌を損ねて楽しいのか疑問だ。

結局、説明は河内先生がしてくれた。

「コンビニで偶然神宮司に会って久しぶりだと話していたところに、友達と一緒に千幸君がきて紹介しあったんだ。その時に彼が受験勉強に手こずってる聞いて、僕から提案したんだ」

「河内は○○大学で頭も良いし、将来教員目指してるっつうからさ」

事情はわかったけど、即決してその日の内に家に来ちゃうって、どんだけ行動力あるのよ。そう思ってため息をつく。

でも。

「だからって、よくあんたが勉強する気になったわねぇ」

「へっ!?え、まぁ…ねっ」

何をそんなに慌ててるのか、千幸は赤い顔のまま笑った。

笑った顔の向こう、時計が見えて、ハッとする。もう5時すぎてる!

「夕飯支度しなきゃ!あ、良かったら直ちゃんと河内さんも食べてって」

「そうだね、有り合わせで申し訳ないけど、ぜひ」

そうしてお父さんと二人、エプロンをして夕食作りに取りかかる。
母親が居ないからか、自然と身に付いてしまった料理はもう特技と言って良いかもしれない。

「あ、冷やし中華あるよ。これにしよう」

「じゃあアタシ卵焼くね」

この時のアタシは、突然現れた彼を只の家庭教師としか思っていなかった……。