「アタシ、変わった?」
「…へ?」
「だから、直ちゃんと付き合ってから変わった?アタシ」
「…んー…?」
千代は可愛らしく小首を傾げる。アタシもつられて首を傾げる。
「大人っぽくなったなぁとか思ったけど、基本的にあんまり…。直斗さんの話は増えたけど、私との時間もちゃんと作ってくれるし」
(…その言葉、そっくりそのままあんたに返すわよ)
ため息を一つついて、千代のお母さんお手製のマフィンをぱくり。うん、いつ食べても美味しい。
「そう言えば、千代はおばさんに彼氏出来たって言った?」
「…千華は、おじさんにどうやって言ったの?」
「…まだ言ってないのね…」
恥ずかしそうにうつ向く千代には悪いのだけど、参考になりそうなアドバイスは言えない。
「アタシの場合、お父さんも弟も直ちゃんのこと良く知ってたしね。付き合い始めてから最初に家に来たときにお父さんがすぐに気付いたみたいでさ」
「おじさんちょっとエスパーっぽいよね」
「…ぶはっ、ちょ、エスパーって!」
爆笑するアタシとは反対に、エスパー呼ばわりした本人はきょとんとしている。ちょっと天然なところが彼女にはある。それがまた魅力でもあると思うけど。
「っあー笑わせないでよもぅー」
麦茶を飲んで息を整え、続きを話す。
「で、アタシたちが言う前に、なんだやっと付き合い始めたのかぁ。って言ってきたのよ、あのエスパー」
「ふふっ、千華までおじさんのことエスパーって言ったぁ」
二人して笑いながらマフィンを食べる。
小学生の頃に、この、“お母さんの手作りおやつ”をとても羨ましく思っていた。千代はこんなに美味しいおやつをいつも食べられて良いなぁって。
アタシの家は、父子家庭だったから。
物心ついた頃にはすでに母と呼べる人は居なかったし、今もそうなのだ。
さすがにもう、母が恋しくて泣くことはないけれど、おやつも羨ましく思うことはないけれど、母親がいたなら千代のように、恋バナは母親に話そうとするのかも知れない。そう感じたら少しだけ母親がほしくなった。