次の日、一ノ瀬君は普通に学校に来た。
一ノ瀬君が教室に入ってきても、女子のみんなは挨拶程度で、一ノ瀬君の周りに群がったりはしなかった。
「…謝んなきゃ」
一ノ瀬君が机にドサッと荷物を置いた。いつものことだけど、今日はやけに怒っているように見えた。
「一ノ瀬君おはよう…」
遠慮がちに挨拶してみた。一ノ瀬君はなんにもなかったかのように、
「あぁ、おはよう」
と言ってきた。
そんなに気にしてないのかな…
あの時のドキドキはかろうじてなかった。
でも、あれだけ言ってしまったのだから謝らないわけにはいかない。
「一ノ瀬君、昨日のことなんだけど」
「…なに?」
「その…ごめん、言い過ぎた…」
しばらく一ノ瀬君は黙っていた。
やっぱり怒るよね…
でも、帰ってきた返事は意外なものだった。
「別にいいよ。ホントのことだし」
「えっ…?」
そこに咲樹が教室に入ってきた。
「十束」
「えっ!なっなに?」
一ノ瀬君は咲樹に声をかけた。
「十束。ごめんな。昨日は言い過ぎた」
「あ…大丈夫だよ」
咲樹は戸惑いを隠せないようだった。
私も一回で意味が理解できなかった。あの一ノ瀬君が謝っているなんて。
その会話を聞いていたらしく、女子のみんなが集まってきた。
「一ノ瀬君、ごめんね…しつこくしちゃって」
「ごめんなさい…」
「一ノ瀬君、ホントにごめんなさい…」
女子のみんなは次々と謝罪の言葉を言っていった。
「いや、俺が言い過ぎたから。みんなごめんな。」
一ノ瀬君は悲しそうに笑った。

ドキッ…

またこれだ…なんなんだろう、このドキッって感じ…

一ノ瀬君がみんなに向ける笑顔はなんだかつくりもののように感じた。悲しそうに笑うんだもん。
心の奥深くに、本当の自分を閉じ込めてしまったような…そう思わせるぐらい、一ノ瀬君の笑顔は嘘くさかった。

しばらく私のドキドキはやまなかった。
咲樹に言うべきだろうか…このドキドキはなんだろうって。
でも、なぜかそれを咲樹に言うのがどうしようもなく怖かった。

続く