教室の近くまで行くと、彼の声が聞こえてきた。
ほら…やっぱりいたじゃん。


「价く」
「…で、話って…?」
「はい…あの…実はですね…」


声と足が同時に止まった。

教室から聞こえてくるのは
愛しい彼の声と…


知らない女の声…




ばれないようにこっそりと前の扉から
中の様子を覗いてみる。
教室の奥の後ろ。ロッカーの前で真っ直ぐに視線を向ける彼と、
少しうつむいて話す女が向かい合って立っていた。


「なにかな…?待たせてる人がいるんだけど…」
「っ…はい…!わかってます…」


少し怪訝な様子で問う彼。
それに煮えきらない態度で答える女。

それを眺めている私。
動けばいいのに、なぜか動けなかった。
動かなかった。