腸(はらわた)がすっかり煮えくり返っていた。


怒りでどうしても震えてしまう手で鏡をカバンにしまっていたら、母さんが席に戻って来た。


「もうすぐ着くわよ」


母さんはそう言うと、手荷物を抱えた。


降りる準備をするのだと察したあたしも、カバンを手にして立ち上がる。


さっきの男を、もう一度睨んでやろうかと振り返ったけれど。


その男の姿はすでに後ろの座席には無かった。


キョロキョロと客室を見渡してみるものの、どこにも居ない。


あれは一体何だったんだろうと少し拍子抜けしつつ、あたしは母さんの後ろに続いて細い階段をカンカンと靴音を立てながら降りた。


フェリーは静かに島へと到着する。


車や自転車、バイクが一斉に飛び出す中、あたしも母さんと歩いてフェリーを降りた。