思わず立ち上がり、サンダルのまま隆治の元へと駆け寄った。


肩に大きなバッグをかけていた隆治は、それをゆっくりと地面に置いた。


「隆治、どうして…?

どうしてここにいるの?

仕事は?

ご主人は?」


「すず…」


隆治があたしの顔を見てにっこり笑う。


「俺、パン屋の仕事を辞めて来た」


「え…?」


意味が飲み込めなくて、目がパチパチしてしまう。


「だって、まだご主人が退院してないって…」


「うん…。実はそれ、ウソ。

すずを驚かせてやろうと思って黙ってたんだ。

俺ね、ちゃんと話をつけてきたよ。

すずのところへ行ってもいいって。

師匠にも、奥さんにも、千春さんにも。

許可をもらってきたよ」


うそ…。


本当に…?


「俺、もうどこにも行かない。

すず…。

俺と一緒に、ずっとこの島で暮らそう。

ずっとずーっと。

一緒にいよう」


信じられないことを言われて。


目の前が涙で滲んで、何も見えなくなった。


「りゅ、隆治…っ」


そう言って隆治の胸に飛び込むと、隆治はあたしをぎゅっと抱きしめた。