「お陰でスムーズに辞められた。

退職金も、沢山もらったよ」


俺の言葉に、母親の顔がパッと明るくなる。


「そう。

それは良かったわね」


俺は、コクリ頷いた。


「さっき大家さんには電話したんだけど…。

なるべく早く荷造りして、あのアパートを引き払おうと思ってる」


「そう…」


「うん…。

早く、すずのところへ行ってやりたいんだ…」


「そうね。

そうしてあげて」


そう言いつつも、なんだか母親は寂しそうだ。


「あの…さ」


「ん…?」


「ありがとう…」


「え?」


「俺のために、師匠に頼んでくれて…」


言いにくかった言葉を、やっと言えた。


でもそれが恥ずかしくて、慌ててコーヒーを口にした。


母親も俺に続いて、コーヒーを口にする。


微妙に流れる沈黙。


どれだけ照れ屋な親子なんだろう。


なんだか、妙におかしかった。