「でも、奥さんはそうじゃないですよね…。

千春さんの活躍が、何よりの喜びだったんじゃないでしょうか…」


それを奪ってしまったことは、やっぱり申し訳ない。


「まぁ確かに、家内の熱の入れようはすごかった。

自分の夢を、全て娘に託しているかのようだった。

だけど、それも度が過ぎると、ただのプレッシャーにしかならないよ。

娘の人生だからね。

娘がそれを心から望んでいるのならいいけど。

母親の期待は、千春にはもしかしたら重荷だったかもしれないよ…」


師匠が苦笑いをする。


「隆治君。

もう事故のことは気にしないで欲しい。

キミは充分に償ってくれたよ。

いや。そもそも、そんなこと必要なかったんだよ…。

ちゃんと補償だってしてもらってるんだし。

そこまで責任を感じなくても、良かったんだよ…」


「師匠…」


師匠の優しい言葉が胸に沁みて、視界がゆらゆらと滲んでしまう。


「僕はキミと出会えて良かったと思ってるよ。

キミのような弟子を育てられて、とても楽しかった。

ありがとう…」


ぎゅっと目を閉じると、大量の涙がポロポロとズボンに落ちて行った。