「主人はね、今安静が第一なの。

ゆっくり休ませてあげたいわ。

だからそんな話、今はしないで欲しいわ…」


奥さんも、千春さんと同じことを言うんだな…。


確かに、千春さんと別れたことや、このパン屋の後継者がいなくなると知ったら。


師匠は、ひどくショックを受けるかもしれない。


病気が悪化するかもしれない。


でも、もうこれ以上、中途半端な状態じゃいられないんだ。


「師匠には本当に感謝してます。

受けた恩は、もちろん返していくつもりです。

師匠がいない間、しっかり店を守ります。

今まで以上に頑張って、貢献します。

だけど…。

この店を継ぐことは、出来ません…」


俺の言葉に、奥さんが視線を逸らす。


「そこだけは、今ハッキリさせておきたいんです。

千春さんと一緒になることは…、出来ません…」


それだけは絶対に伝えないといけないことだ。


どんなに失望させようとも、それだけは…。