「長谷川君。主人にも千春と別れたことを話そうとしているのよね…?」


「え?あ…、はい…」


俺の返事に、奥さんがため息をつく。


「あなた、主人の好意を踏みにじるつもりなの…?」


「え…?」


ゴクッと息を飲んだ。


その音がやけに大きく響いた気がした。


「就職先も何も決まっていなかったあなたに職場を与え、仕事を教え…。

千春の足のケガのことも責めず。

かえってあなたを信頼し、店を継がせてもいいと言っていた主人なのよ?」


唇がブルブルと震える。


何を言われてもいいと思っていたけど。


師匠の気持ちを考えると、さすがに胸が痛かった。


「私達の大事な一人娘。

特に父親って、娘がすごく可愛いのよ。

一緒になっていいとまで言ってくれていたのに…」


奥さんの言葉が、やけに遠くに聞こえる。


そして、気がつけば…。


俺の頬に涙が流れていた。