恐る恐る顔を上げると、今度は悲しそうな目をした奥さんと視線が絡んだ。


その目を見ていると、どうしようもなく胸が苦しくなった。


「だからこそ悔しいのよ。

ひどく裏切られた気分よ。

ねぇ、どうして千春じゃダメなの?

その昔の恋人がそんなにいいの…?」


「あの、俺…」


そう言葉にしたけれど、続きの言葉が出て来なかった。


「あの子の足の傷、見たことある?

今もクッキリ残ってるのよ。

すごく痛々しくて、かわいそう。

あの子にあんなひどい傷を残したくせに、あっさりあの子を捨てるの?

あんまりじゃないの…」


奥さんの目から涙が流れていく。


千春さんは一体、どういう伝え方をしたんだろう。


うまく話してあげると言っていたけど。


これはどう考えても、別れないで欲しいと言われているようだ。