奥さんの目があまりに怒りに満ちているから、俺はたまらず目を伏せた。


「あの子はね、私の誇りだったの。

自慢の娘だったわ。

頑張るあの子を支えることが、一番の喜びだった。

陸上の大会を見に行くのが、どれほど楽しみだったか…。

だけどそれも、一夜にして無くなってしまったのよ…」


奥さんの言葉が、胸に突き刺さる。


無意識に指先が震えて、俺はその指を隠すようにぐっと握りしめた。


「あなたのこと、どれだけ憎んだかわからない。

そんなあなたをパン屋で働かせること、私は猛反対したの。

だけど主人や千春に説得されて、しぶしぶ承知したのよ…」


それは知っている。


ここに住み込みで働くことになった当初、奥さんは俺とは目を合わせてくれなかったから。


「でも、あなたの誠実さや、真面目に仕事に取り組む姿を見ていて、考え方が変わって来たの。

千春があなたに惹かれるのも、わかる気がしたわ。

そして私も、いつの間にかあなたをすっかり信頼していた…」