早朝まだ真っ暗で、街が眠りについている頃。


俺は一人自転車を漕ぎ、パン屋を目指す。


住み込みの時は気づかなかったけど、この時間に出会うのは新聞配達の人くらいなものだ。


店に到着すると、師匠は既にパン生地の準備に取り掛かっていた。


焼きたてのパンを朝7時から販売しようと思えば、このくらいの時間から仕込まないといけないのだ。


昨日の件で、千春さんが既に事情を話しているかもしれないと思ったけれど。


師匠はいつもと何も変わらない様子で。


もしかしてまだ話していないのかもしれないと、俺は直感的にそう思った。


朝7時の開店の前に、店舗に奥さんが顔を出した。


奥さんはというと、やはり師匠同様、いつもと変わらない様子だった。


朝食の時間、キッチンで千春さんに会ったけれど。


彼女はいつものように俺に話しかけて来て、まるで何事もなかったのように振る舞っていた。


ただ、顔だけは泣いた形跡があって。


その腫れた目を見ていると、胸がチクリと痛んだ。