「へぇ~。キスをねぇ…」


右京君は何やら含みのある言い方で、ぐっと左口角を上げた。


「まぁ、そりゃそうだろうなあ。

この世で一番好きな人が死にかけたんだ。

気が気じゃなかったんだろう」


右京君の意外な言葉に、千春ちゃんが首を傾げる。


「何…言ってるの…?」


千春ちゃんは意味がよくわからないようだ。


「千春ちゃん…」


右京君の低い声が病室内に響き渡る。


「な、に…?」


右京君がいつになく真剣なので、その態度に千春ちゃんは明らかに困惑していた。


「千春ちゃんと隆治が初めて出会った当時…。

隆治には、実は恋人がいたんだ」


「え…?」


「島と東京の遠距離だったけど。

隆治、その彼女のことがすげー好きで。

春から東京の大学に来るのを、楽しみに待ってたんだ。

もうすぐ受験で彼女に会えるって時に、あの事故があって…。

隆治、その事故の責任を感じて。

それで泣く泣く、その彼女と別れることにしたんだ…」


右京君の言葉に、千春ちゃんがゆっくり振り返る。


「そう…なの?」


そう問いかける千春ちゃんに、隆治はうんと頷いた。