もうそれからは、ただひたすらその人のことを思いながらパンを焼いた。


週に3回も、その人は俺のパンを注文してくれて。


千春さんから、その友達の感想を聞くのが、俺の一番の楽しみだった。


彼女のためにパンを選ぶ瞬間が、一番嬉しかった。


そうこうしているうちに、常連さんも戻り、新たなお客さんも増え始めて、店も活気を取り戻していった。


師匠が退院する頃には、すっかり店の売り上げも上がっていて。


師匠はすごく喜んでくれたよ。


キミさえ良ければ、いずれこの店を継がせたっていいって、そこまで言ってくれた。


その時に千春さんが、俺を好きだとご両親に打ち明けて。


それなら将来結婚して、二人でこの店をやったらいいって。


そうおっしゃってくださった。


事故で千春さんの人生を変えたのに、そんな俺を拾ってくれて、仕事場や居場所まで与えてくれて。


俺は感謝してもし切れないほど、この家族に色んなものを与えてもらっている。


その恩返しをずっとしていこう。


この時、俺はそう心に決めたんだ。