一人でパンを作るのは怖かったけど、でも師匠に教わった通りに、ただひたすら毎日パンを焼いた。


その頃からだろうか。


奥さんの俺を見る目が変わって来たんだ。


主人が倒れた時、長谷川君が居てくれて良かった。


あなたが居てくれなかったら、どうなっていたかわからない。


あなたがこの店に来てくれたことに感謝するって。


そこまで言ってくれるようになったんだ。


俺、師匠と奥さんの期待に応えなきゃって。


それはもう必死だった。


だけど、いざパンを作り始めたら。


常連のお客さんから、微妙に味が違うってクレームが入り始めて。


昔からの老舗で、常連のお客さんが一番大切だったのに。


急に客足が減って、俺はすっかり自信を失くしてしまった。