「すず…っ」


あたしの耳のすぐそばで、隆治の声が聞こえる。


隆治の胸、隆治の腕…。


隆治に抱きしめられたのは、


隆治が島から引っ越す前日の、


あの数時間だけだったのに。


それなのにあたしは、


隆治の感触を覚えていた。


懐かしくて、切なくて、悲しくて。


必死に堪えていた涙が、堰を切ったように流れ始めた。


「泣くなよ…、すず…。お前が泣くの…、見たくないんだ…」


苦しそうに言葉を紡ぐ隆治。


泣くな?


どうしてそんな残酷なことが言えるんだろう。


だから、イヤだったのに。


だから、もうパンはいらないって言ったのに。


そっちが一方的に、スイッチを入れちゃったんじゃないか!