「じゃあさ…」


ぽつり呟く隆治の声が、なぜか妙に低く大人びていて。


人形みたいに、身動きがとれなくなった。


「泣いてたのは、どうして…?」


隆治の意外な言葉に、あたしは視線だけを恐る恐る向けた。


隆治の綺麗な目と視線が絡み合って、心臓が異常なほどに暴れ始めた。


「はっ?泣いてなんかないよ。

ずぶ濡れになってただけじゃん」


どうしようもなく震える指を、サッとカバンで隠した。


だけど隆治は、強い視線を離そうとしない。


「嘘つくなよ」


「う、嘘じゃないよっ!

だって泣いてなんかないんだもの。

つきようがないじゃない」


ハッと吐き捨てるように言い放った。


「嘘なんか、つくな!」


執拗に責める隆治にイライラして、あたしはぎゅっと下唇を噛み締めた。


「なんで怒鳴るの?

アンタ、バッカじゃない?

なんで泣く必要が?

泣くことなんか、何もない…っ」



そう叫んだ直後、急に観覧車が揺れて。



何がなんだかわからないうちに。



あたしは床の上で、



隆治に抱きしめられていた。