隆治が連れて来たのは、観覧車の前。


別に逃げ出したりしないのに、順番が来るまで、隆治はあたしの腕をぎゅっと掴んで離さなかった。


観覧車に乗り込むと、ようやく腕が離され、隆治はあたしの向かいに座った。


ガチャンと扉が閉まり、観覧車はゆっくりゆっくりと高度を上げていく。


開いた窓の隙間から、軽快なBGMと、楽しそうな笑い声が響いていた。


隆治の視線は、今どこに向いているのだろう。


なんだか怖くて、隆治の方を見ることは出来なかった。


ただ息苦しくて。


さっき掴まれた腕が、


妙にヒリヒリ痛かった。


「すず…」


懐かしい呼び方に、胸が高鳴るのを感じる。


そんな自分が、


どうしようもなく腹立たしい。


「思い出したんだろう?」


隆治の言葉に、ピリッと空気が張り詰める。


「な、にが…?」


動揺した声が出て、自分でもビックリしてしまった。



「お前。



思い出したんだろう?



無人島で過ごした



あの日のこと…」