「すっかり自信を失くしてた時に、千春さんが嬉しそうな顔で大学から帰って来て。

友達がすごくおいしいって言ってたよって教えてくれたんだ。

その言葉で俺、立ち直れたから…。

その人のためにも、もっと頑張ろうって思ったんだ…」


隆治…。


「ご、ごめんね。

その相手があたしだなんて。

イヤだったよね?」


あたしの言葉に、隆治がパッとこっちを向いた。


「そんなわけないだろう?

相手が誰だろうが、俺の作ったパンの最初のファンだから。

ビックリはしたけど…。でも…、嬉しかったよ…」


隆治にそう言われると、なんだか泣きたくなってしまう。


「そっちこそ。

俺が作ってたって知って、イヤになったんだろう?」


「え…?」


「あんなに気に入って、週に2、3回は買ってくれてたのに。

急にもう必要ないって…。

相手が俺だからだろう?」


「え、だって…」


だって…。


迷惑かと思ったんだもの…。


もう電話するなって。


忘れろって。


さよならって言われたんだもの。


そんな相手に食べて欲しくないに違いないって思ったんだもの。