隆治は何を思って、ここに来たんだろう。


何を話していいか、わからない。


しばらく夜景をただ見ていたら、隆治がはぁと長い息を吐いた。


「ビックリしたよ」


ぽつり呟く隆治。


たったそれだけの言葉なのに、すぐ隣で隆治の声がすることに、あたしの胸はキュンと音を立てた。


「まさか千春さんの友達だったなんて…」


隆治はあたしの方は見ずに、夜景をじっと眺めているようだ。


「あたしもビックリした…」


本当に、心臓が止まるかと思ったもの…。


「千春さんの友達が、俺の作ったパンをすごく気に入ってくれてるって聞いて。

すげー嬉しかったんだ。

俺の作ったパンをおいしいって言ってくれた、最初の人だったから」


「最初の人…?」


「うん…。

師匠が倒れて、俺が一人でパンを作ることになった時。

あの店の味を忠実に再現したつもりだったんだけど。

古くからのお客さん達に、味が変わったって言われて…。

しばらく、お客さんが減っていた時期があったんだ…」


「そうなの…?」


あたしの問いに、隆治はうんと頷いた。