ここにこうして座っていると、すごく静かで、時間なんて忘れてしまいそう。


波の音が心地良くて、なんだか眠くなって来る。


目の前には、カヤックに乗る隆治の姿が見える。


「すずちゃんと隆治って、仲が良さそうだね」


「ははっ。どうですかねー。仲が良いと言っていいのかどうか」


「隆治、口悪いでしょ?すずちゃん、あの毒舌によく耐えられるね」


「うーん。まぁ、あたしも負けていないので」


あたしがそう言うと、木下さんは頷きながら笑った。


「アイツ、僕にもかなり口悪いよ。年上にする態度じゃないよ、あれは」


木下さんが身体を仰け反らせて、苦笑いをする。


へぇ…。隆治は木下さんにも口が悪いのか。


「でもさ、隆治が毒吐く相手って、信用してる相手だけなんだよ」


「え…?」


「アイツの家庭事情、知ってる?」


木下さんの言葉にドクンと心臓が音を立てた。


一応頷いてはみたけど、この人は一体どこまで知っているのだろう?


「アイツさ、反抗期真っ只中で両親を亡くしてるだろう?

反抗出来るのもさ、親子の信頼関係あってのものじゃん?甘えっていうかさ。

そういうことが出来る相手がいないって、結構大変なことだったと思うんだよな…」


せつなそうにため息をつく木下さん。


木下さんは、隆治のご両親が生きていることを知らないんだ。


やっぱりあれは、あたしだけに話してくれたことなんだ…。