緩やかな坂を上がると、突き当たりにニ階建ての古い民家が見える。


それが、おばあちゃんの家だ。


運転手さんにお金を支払うと、あたしと母さんはタクシーを降りた。


玄関は毎度のことながら、開けっ放しになっていた。


「ただいまー」


母さんが大きな声で言うと、おばあちゃんがパタパタと奥の台所から出て来た。


「おかえりー。長旅で疲れたじゃろう?まぁ、ゆっくり休みんさい」


あたしと母さんは靴を脱ぎ、入ってすぐの和室に腰を下ろした。


「はー、長かった」


あたしは早速両足を放り投げた。


「確かにちょっと疲れたわね」


そう言って母さんも足を伸ばす。


縁側から潮の香りのする風が吹いてくる。


その風に乗って、黒い風鈴がチリンチリンと鳴った。