やがて貴未の身体が宙に浮き少し身を縮める体勢になり、その場にいた全員が飛ぶと予感した時だった。

「待って!!」

静かなざわめきの中を透き通るような声が駆け抜ける。

声の主はキースの横でずっと物言わず立っていた圭だった。

「圭?」

キースもまた貴未の様子に驚いていた内の一人だったのだろう。

動揺を含んだ彼の声に目もくれず、圭はゆっくりと貴未の方へ近付いていく。

この大きな部屋に彼女の靴音しか聞こえないくらいに彼女の全てが支配をしていた。

取り巻いていた群衆も圧倒されて道を開けていく。

圭は貴未を、貴未は圭を揺れる瞳で見つめあっていた。

そして圭は貴未の目の前に立ち止まり手を差し伸べたのだ。

「どうぞ、ここへ。」

それは翼を広げ宙に浮き、まさに今旅立とうとしている貴未に向けた滞在の願いだった。

「私はずっと貴方を待っていた。」

圭の言葉に貴未は疑問を持つ、彼女とは初対面の筈だ。

「俺を?」

圭は頷く。真っすぐな瞳は嘘を許さないものだった。