「先の長姫を知っておるのか。…成程、あれの言う事にも耳を傾けておくべきだな。」

自分の中で満足したのか、また口の端で笑みを零すとアレドは歩き始めた。

「ぬしらは皆オフカルスから来たのか?」

「そうで無い者もいる。この国にはどこまで情報が伝わっているのだろうか。」

「知り得たことだけだろう。口ぶりからするに、ぬしらはこの国を何も知り得ていないようだな。」

「僅かながらに知り得たものはある。」

「先の長姫からか。」

「いや、ロワーヌは多くを語らなかった。」

「そうだろうな。得たいものが無い。」

カルサたちが情報を少しでも得たいという思いはアレドの好奇心との温度差を深めていく。

どうにも埋まらない距離にカルサは少し焦りに似た感情を抱き始めた。

「歓迎はされていないと感じるが。」

「面白いことを言う。来るなり剣を振りかざせば誰とて同じよ。」

そう言われると返せる言葉を失ってしまう。

何だろうか、アレドとの会話には今まで抱いていた思いを覆されるような感覚に捕らわれていくのだ。

魔物、魔族とは相反するものであると絶対的な定義がいつから付いたものなのだろうと考えたくなるような。

思えば何故ロワーヌは神官としてオフカルスに来たのだろうか。

「…闇はいずれ光を侵食するものだと思っていた。」

「たわけたことを。侵食して何になる。ぬしらが思う程わらわは光に興味はないわ。」

鼻で笑うように吐き捨てられると、その言葉を置き去りにしてアレドは進み続けた。

そして木々の切れ間に着くと切り立った崖が現れる、先の方まで進み振り返ってアレドは口を開いた。

「見よ。あれがこの国唯一の城だ。」

そこには深い森に囲まれているにも関わらず、一線を画して存在を知らしめる大きな城が聳え立っていた。