「そんな大層な肩書はない。城に居を構える一族、ただそれだけの事。…わらわの名はアレドだ。」

「アレド殿…。」

「もっとも一族と言えど二人しか居らぬがな。」

そう言い放つとアレドは再び向き直して歩き始める。

「突然の訪問に無礼は承知。アレド殿にお尋ねしたい事がある。」

「歩きながらでも良かろう。先を急いでおるのでは?」

先を進めるアレドにカルサたちは駆け足で寄った。

身分を明かしてもアレドの態度は変わらない、ある程度予想をしていたにせよ心底興味がないように彼女の感情は平坦なままだった。

「ならば問う。何故ここにアレド殿が?こちらの動きが分かる方法でもお有りか?」

「偶然だ。」

「風神はいま何処に?」

「城におる。」

「では今向かっているのはアレド殿の城だと。」

「そうであった、とした方が正しかろう。今は居を移しておる。」

身のこなしが軽いのだろう、アレドは急な斜面も軽く跳ねるだけで上りきって見せる。

カルサたちもそれに続くが圧倒的に身体の重さを感じさせられた。

上りきった先では見下ろす形でアレドが立ち止まってくれている。

「アレド殿、居を移しておられる理由は?」

「人とはかくも厄介なものよのう。身分を明かせば話し方も変わる。窮屈ではないか?」

その言葉にカルサの中の古い記憶が呼び起こされた。

しかしその反応を示したのはカルサだけではなかったらしい。

マチェリラも圭も同様にして目を見開き何かを見付けたようだった。

「ロワーヌと同じことを…。」

マチェリラが思わず零した言葉をアレドは拾い、反応を示す。