離れたところから、穏やかな光に包まれた場所に1人で立つ沙更陣を見て今ならこう思う。

変わらない場所で待ち続ける戦いにこの先も沙更陣は身を投じていくのだろう。

「…世話になった。」

声は届かずともカルサの口の動きでそう感じとれ沙更陣は抑えていた感情を乱した。

それは違う、世話になっているのは後にも先にも自分の方なのに。

「…っ私はここで待っている!この戦いがどんな結末を迎えたとしても、私はずっとここにいる!!」

声は届いているのだろうか、微かに笑みを浮かべたカルサは視線を戻し仲間と向かい合った。

この声を受けるのは背中だけだ。

「生きて…生き延びてくれ!それがどこでもいいから!!ここに戻ってこいなんて言わないから!!」

貴未の翼がゆっくりと羽ばたく、そして全員が一瞬で姿を消した。

全てが夢だったかのように彼らの痕跡は何もない。

これが夢だったならどんなに良かったか。

沙更陣はそれ以上、言葉を続けることができなかった。



貴未の頭の中には一つ名前のない奇妙な感覚が前から存在している。

それは夢で不思議な体験をするようになってからだった。

理由はない、だけどなんとなく確信めいたものがあって貴未はそこに手を伸ばした。

大丈夫、必ず自分が連れていく。

初めてオフカルスの界の扉に触れたときに感じたもの、それは種類こそ違えど夢の中で幾度となく触れた空気に近かった。

夢でしか会えない女性は長い間言葉を交わすことが出来なかったが今になって分かることがある。

この感覚を覚えているように、そう意味合いを込めて貴未の夢の中に現れていた様だった。

でも彼女がいたあの場所はきっとこの三つの中にはない、でも通じるものがあるからこそ教えられているような気がしたのだ。

だから大丈夫、絶対に行ける。