「絶対に壊れさせん。うちは胸にしまってた結界石の欠片を持って前に貼った結界に力を送ろうとしたんや。」

石の気配を感じることが出来ればその近くに貼った結界の場所が掴める。

せめて集落だけは守れるように最後の力を振り絞って力を込めた。

紅のシードゥルサでの記憶はそこまでだった。

「後々テスタに聞いたら…うちの代わりに聖がそれをやったらしいわ。」

持てる全ての力を使って、国中に散らばった自分の結界に力を送り強化をして、そして倒れた。

「中途半端に力を出して意識を失うたウチをテスタに預けた瞬間に倒れたって。それからずっとこのままや。」

いつの間にか止まった涙は紅の表情をより切なくさせる。

「…この呪符は?」

思いの外低い声で問うカルサに紅は首を横に振って微笑んだ。

「ウチがやった。…テスタがやめえ言うたけどな。…命を落とした言われても…そんなん受け入れられへんくて…っ。」

その言葉に貴未は身体ごと聖に向いて何か言いたそうに前のめりになった。

それはカルサも同じだ、信じられない面持ちで聖を見つめ次第に拳を握りしめる。

「何の美学なんやろな。ウチには分からへん。自分一人で何もかんも抱えて逝くなんてウチには分からへん。」

紅の声が震えていくのが分かった。

聖に訴えているのか、これからまさにそうしようとしているカルサへの抗議なのか分からない。

ただカルサは自分が行った先の姿を見せられているようで胸が締め付けられた。

「好きやいうてくれたんよ。…ウチらは兄妹で…双子で、どう足掻いたって許される筈ないのに聖は超えようとしてくれてたんよ。」

「紅…。」

涙を堪えきれず話す紅に貴未は首を振って止めようとした。

それは自分たちが聞いていいことではない、聖が必死に隠そうとしていた全てを聞いてはいけないと思ったのだ。

それでも紅は止めなかった。

何度も何度も首を横に振って涙を深めていく。