「結界石を壊したのは…どういう感情からだったんだろな。」

貴未の言葉は身体に染み込んでくるように深く入ってきた。

「結界石の力で被害が少なく済んだ町だってあるのに。」

「町を囲む結界に石の力は使てへんよ。」

「え?」

「全部うちらの力だけで張ったやつや。結界石は罠に使っただけやで。」

「罠って?」

「魔物が来たら反応するようにした細工やな。聖は守りの主に石を使うんは嫌がっとったから。」

そう言った紅に倣うようにカルサも貴未も聖の方を見た。

まつ毛1つも動かない聖の姿に問いかけても当然何も返ってくる様子は無い。

「じゃあ…ますます分かんないじゃん。聖はなんで壊したんだよ。それだけ自分に自信があったってこと?」

「多分やけど…次の為にやと思うで。」

「次の?」

「カルサの次、うちらの次。あの石を使える者がおらんくなったときに争いの種になる。…あの石が何であったんかは知らんけど…敵がおったことは間違いない訳やろ?」

「どういうことだ?」

「…何かから守る為にあの石が必要だったから、そういうことだな。」

「せや。やけど…力は他を引き寄せる強い磁石みたいなもんや。ええことばかりやない。」

それはまるで自身の事を言われているようでカルサは眉を寄せた。

小さく頷くと紅の言いたいことがよく分かることを訴えるように口を閉じる。

「無理せなあかん国は…長くは続かへんのよ。」

自分たちの国も含めて出した言葉なのだろう、紅は難しい顔をして物言わぬ聖の方に手を乗せた。

「聖は…うちを守るために全てをかけた。あんたもそうやろ、カルサ?」

「え?」

「全てを守るために自分の身を投げ出す。そうなんやろ?」