「滅多に迷い込めない場所です。選ばれた人間しか通ることが出来ない。…後ろの扉を開けて元の世界に戻りますか?それとも…少し休んで行きますか?」

聖の強張った身体がほどけて、肩が下がっていくのが分かる。

「ここには私しかいません。お茶でもいかがです?」

夢か現か分からなかった。

それでも、引き返す選択肢がなかった二人はそこでテスタと関わりを持つことになったのだ。




「うちらはテスタのとこに暫くおらしてもらって…それからシードゥルサに向かった。テスタの薦めや。力を必要としとる者がおるて…いつまでもここにおる訳にはいかんから向かったようなもんやけどな。」

そう言って紅はカルサの方を見た。

「あんたを守るために…助けるために行ったんとは違うよ?せやけど、長年暮らしていくうちに守りたいと思うようになった。その気持ちは本物や。」

微笑む紅の言葉にカルサは頷いて微笑み返した。

「ありがたいと思っていたよ。」

しかし聖はまた違う思いがあったのだろうと想像が出来て視線を移す。

いつも探るように、時に戒めるように関わってきた聖には敵意に近い鋭さを感じていたからだ。

「…聖は俺を危うく見ていたんだろうな。」

「かもしれん。…やけど聖はカルサを見張ってたんとちゃうと思うよ?」

「そうか?」

「ホンマに恐ろしいんは独裁やない。その先にある国民の働きや。…またあんなことが起こるかもしれんて警戒してたんやろ。」

カルサは受け止めるように口を閉ざして眉を寄せた。

「もしそうなった時、一番にあんたを守り身を盾にするんはサルスや。聖が一番気にかけ取ったんはサルスやで。」

「…そうか。」

それ以上言葉が出なかった。

思い当たることも、そうなってしまった事も、そうなるように仕向けたことも全てカルサの中で真新しい記憶として残っている。

聖からの刺す様な鋭い視線は牽制だったのだ。