カスミとは紅付きの侍女であり乳母でもあった者の娘、3つほど年が上で姉妹の様に育った女性だった。

あのさらし首はおそらく二人の物だと気付かされ、紅は全身の力が抜けて気力を手放した。

聖が身代わりを頼んだかどうかは分からない。

頼んでいなかったとしても、あんな仕打ちをうけることは予想できたのではないかと思った。

そう、聖は全てを知っていたのだ。

それでも聖を責める気にはなれない。

布が水を吸い込んでいくようにただ推測とその目で見た真実を受け止めるだけだった。

国を捨ててどれ程歩いただろうか。

心身ともに疲労が重なり足元もおぼつかなくなった二人を霧が包んだ。

朝靄ではない、明らかに感じる異様な空気に構える気力もなかった。

もうどうにでもなればいい。

投げやりに歩き続ける紅を聖が止める。

「あかん、なんかおかしいぞ。」

「…別にええやんか。…何でも。」

「何言うとんねん、紅こっちこい!」

強く引っ張られた腕に痛みを感じても紅は抵抗をしなかった。

辺りを白く染めていく霧はさらに深みを増して二人を孤独にさせていく。

警戒を強めた聖が紅を胸に抱き寄せた。

耳に心臓の音が響いてくる、深くなる霧よりも鼓動に反応して紅は一筋の涙を流した。

「…バチがあたったんやて…。」

耳に届いた呟きに聖が問いかけようとすると、強い風が通り抜けて咄嗟に構えた。

空気が変わっていくのを肌で感じる。

どうすればいい。

胸には短剣を忍ばせているが丸腰に近い状態だ、守りきれるのだろうか。

緊迫していく中で微かだが人の気配を感じて聖は体を固くした。