西宮を囲う壁、そこにある見張り台にいくつもの松明が集められているのが分かった。

遠すぎてよく分からないが、見張り台にいる誰かが群衆を煽るような動きを見せ、首が二つ槍に刺されて掲げられている。

これ以上にない喜びを表す歓声は大気を揺らして聖と紅の身体に僅かながらも衝撃を与えた。

「そんな…。」

掲げられた二つの首の影を見て自分は確かにここにいる、本物はここで生きている。

あれは一体誰だ。

「紅。」

「ああああ…。」

「立て、まだまだ進まなあかん。」

紅は両手で顔を覆ったまま、泣き崩れて動けない。

聖はそんな紅を抱えてそのまま歩き続けた。

腕の中からは悲痛の声、背中に希望の歓声をあびて聖は顔を上げたまま国を後にしたのだ。


歩きながらずっと考えていた。

帝の命を狙う企みがある、そう聞かされた時の聖の態度がいつもと違っていた気がする。

そして去り際の侍女の言葉も今となっては偽りの様な気がして仕方がない。

きっと聖は全てを知っていた。

各宮の太子たちが帝の命を狙っていたこと、国民たちの企てもあったこと、民たちのリーダーと太子たちの合意によって同時に本宮を襲撃しようと計画が練られていたこと。

しかし民たちの狙いの中には太子たちも入っていること、帝の血族全てを滅ぼし新しい国に作り替えることを民たちが望んでいること。

全て聖は知っていたのだ。

おそらく聖に近い者が教えてくれていた、いつも聖の傍にいて彼を支え続けてくれていた老中の子息ハヤテ、彼に違いないだろう。

野宿をした時にうなされながら聖は口にしていた。

「すまない…ハヤテ…カスミ…。」