「うちはいつも…っ大きな力に飲まれてばかりや…っ!!」

紅の言葉を遮るように聖は強く彼女の腕を引き寄せ反射的に唇を奪った。

一瞬、時が止まったようにも思えたが崩れていく宮の音が紅の意識を引き留める。

「何しとん…っ!?」

紅は精一杯の力で聖の身体を押しのけた。

しかし聖は負けじと紅との距離をつめ、再びその唇を奪ったかと思えば今度は深く深く求めていく。

抵抗する紅の力を奪ってしまう程に何度も何度も角度を変えては深めて紅を求めた。

しっかりと抱き寄せて思いの全てをぶつけるように聖は解き放っていく。

「…っはあ。」

力が入らなくなるまで紅を追い詰めた聖はようやく求めることを止めた。

息の上がった二人が呆然としながら向かい合う。

「…行くで。」

掠れた声を絞り出すと聖は紅の腕をひっぱりもう一度走り出した。

完全に思考が回らなくなった紅は引かれるがままに走り出すしかない。

細い一本道を抜けて走った先は宮の外だった。

外陰を羽織った紅と従者の様な軽装だった聖は特に目立ち過ぎることなく闇に紛れて宮を離れていく。

遠くからも聞こえる崩れていく音は他の宮のものだろうか、至る場所で起きた騒動は夜空全体を覆う雲のように晴れそうにもない。

しかし終わりを告げる音は突然として鳴り響いた。

「太子と姫の首をとったぞー!!」

「取ったぞー!!」

繰り返される耳を疑う言葉に紅は振り返る。

それには聖も同じ様に足を止めて遠くにある宮を見上げた。