これまでで一番強い力を振り絞り聖の手から逃れようとしたのだ。

「あかん。離さへん。」

絶対に離さないと睨みに近い真っ直ぐな目を紅に向ける。

それを受けてたった紅は完全に睨み付け、扉を閉ざすように結界を貼り付けた。

「…紅!」

「納得出来る訳ない。…聖は知っとったんやろ?何なんよ、この状況は!」

「…北宮以外の太子らと領民らで帝を狙う企みがあった。せやけど民たちの狙いには俺らも入っとった。…統治者を変える戦いが起こったんや。」

離してもらえそうもない手を見つめるように紅の視線が落ちていく。

俯き、その目を覆うようにすると絞り出すような声が聞こえてきた。

「…うちが本宮に上がれば全部収まるんとちゃうの?」

「…もうそんなレベルの話やない。」

切り捨てる様に吐き出された言葉に紅は何も返さない。

もう時間の余裕もなかった。

「行くで。」

「何で行かなあかんの?」

紅の低い声が遠くに聞こえる騒ぎを裂くように響く。

「だからって…何でうちらだけ行かなあかんのよ。」

「紅。」

「うちはこんなん望んでない!」

怒りに満ちたその目は思いの強さを表すように涙を浮かべて聖に訴えた。

「うちが死んだら皆助かるんとちゃうの!?何でうちは生きなあかんの!!?」

「俺が死なせとうないからや!!」

「そんなん知らん!」

「紅!」