「太子様、姫様をお願いします!」

「待って、太子…。」

足を止めることなく紅の腕は侍女から聖に渡され、そのまま目指す場所へと向かって行く。

「こちらの事はお任せを!!」

背中を押すように叫ばれた言葉で紅は振り返った。

どうか無事で、そんな言葉も聞こえた気がする。

既に群衆の声が宮を囲う様に勢いを増し、焼け落ちていく建物の音も合わさって距離のある声は聞こえにくくなっていた。

遠ざかる侍女の姿に心が震えて目が熱くなる。

「待って!聖!待ってって!!!」

「あかん、走るんや!」

「嫌や!放して!何でうちの身代わりなんか!」

「紅!」

走り続けた足を止めて聖は振り返った。

紅と視線を合わせたかと思うと、また力強く手を引っ張って走り出す。

一度は治まった感情がよみがえり、紅は引っ張られながらも懸命に抵抗をした。

「いやや!聖!!」

踏ん張っても敵わない。手を外そうとしても敵わない。

「聖っ…離して!」

混乱の宮中を進んで行く先が限られた者しか知らない抜け道なのだと紅は覚った。

これでは完全に亡命だ、だとすれば宮に取り残された者たちの身も危ういではないか。

「何でうちらだけ…っ!」

強い憤りが紅の心を締め付ける。

宮の外へと繋がる扉の前でその思いは爆発した。