肩を掴む手が熱い、こうして聖に触れたのはいつ以来だったのだろうか思い出せないくらい遠い記憶なのだろう。

力強い大きな手に聖の成長を感じて胸が熱くなった。

「絶対に。」

怖い位に響いた聖の言葉を受け止めるしかない。

そして言いようのない不安を抱えたまま何事もなく日が過ぎ、本宮に上がる支度も完了してあとは明日の朝その時を待つだけとなった。

この夜を越えたらもう二度とこの西宮に足を踏み入れることは無い。

聖と会うことも、叶わなくなるだろう。

しっかりと眠らなければいけないのに少しも眠れそうにない紅はただ無心で月を眺めていた。

吸い込まれそうな大きな月がこちらを見ている。

そして、その時がきた。

静まり返った夜に微かに響いた群衆の声、賑わいに気付いた紅はいつもと違う雰囲気を感じて耳を澄ました。

しかし静寂を貫く月夜には何の音も響かない。

気のせいだろうか、でも確かに何か聞こえたと思ったのだが。

不思議に思って紅は意識を集中して耳をすました。

そこであることに気が付いたのだ。

「虫の声も聞こえん…。」

そう言えばいつの間にか止んでいる虫の声に胸騒ぎを覚え、もたれていた窓から身体を起こした。

なんだろう。気配は感じない、しかし何かが起きている。

次第に速まる鼓動に緊張が比例して高まっていくのが分かる。

一体何が。

「わああああぁぁぁぁ…」

遠くでまた群衆の声が響いた。

やはり聞き間違いではない、何か起きている。