「仕方ありません、命じられたことには従わなければ。」

暴君と称される帝には歯向かうことは許されない。

歯向かった場合、その罰は自分に下されればいい方だ。周りやもっと大きな範囲で処罰される可能性が高い。

選択肢などないのだ。

「ほんまにそう思とるか!?お前が本宮に上がって何が守れんねん、ますますつけあがらせるだけやろ!」

「ですが、父上は本宮に!」

「まだ生かされとるとホンマに思っとんのか!?」

聖の強い言葉に紅は言葉を詰まらせた。

疑ったとしても口にしてはいけない問いは15年ずっと抱えていたものだ。

聖に両肩を掴まれ俯いていた顔を上げさせられた。

「仮に生かされとったとして、この年月が物語っとる。時代は俺らが担う、この国を動かすんは俺らや。」

「せやけど…っ。」

「紅、ええか。俺は企てにはのらん。やけど招集にも応じん。」

含む様な言い回しに目を細め紅はその真意を求める。

招集とはつまり帝は既に企てを耳にしているという事なのだろうか。

「…どうするつもりなん?」

聖は問いかけに目を伏せると少しの沈黙を生んで再び口を開いた。

「事が為されるその日は十日後…側室が本宮に上がる日やと聞いた。」

「十日後…。」

「お前は絶対に俺が守ったる。」

揺らぐ熱い眼差しに心が震えて紅が何か尋ねようと口を開く。

しかし何故か躊躇われて震える唇を閉じた。

聖がこれ以上の距離を懸命にとどめようとしている様に感じたのだ。