向かったのは宮主が使う執務室、今は代わりを勤めている聖が使用している限られた者しか入れない場所だ。

「人払いをしてくれ。」

「はっ。」

入口の兵士に命じると聖は中に進み机の前で足を止める。

「太子…兄様?」

ただならぬ雰囲気を感じて紅は何かと問いかけた。

距離をつめるのも躊躇われて入口に立ったまま踏み込めないでいる。

「大きな声では話せない。…近くに来てくれ。」

そんな事を言われるとさらに不安を煽られることになり、紅は緊張を高めながら足を進めることになった。

「何か…あったんですか、兄様。」

ある程度近付いても聖の口は開こうとしない。

もっと近付き、話をするのには限界の近さまで詰めた時ようやく聖が口を開いた。

「こんな話を聞いた。帝の暗殺を企む奴らがおるて…。」

「太子、そのようなこと!それにその話し方は。」

「かまわんやろ、俺らしかおらん。」

そう言われ慌てて気配を探るが、紅は不安で仕方がないのだ。

訛りの強い話し方は上流階級では好まれない、そして内容も口にするだけで恐ろしいものだった。

慌てて結界を張ろうとしたが、聖が既に施していたことに気付いて思わず息を吐いた。

「ですが…どこで誰が聞いているか分かりません。貴方はこの西宮の太子ですよ。物騒な真似は…。」

「せや。そんでお前はニノ姫や、そんなん分かっとる。やからこそ苛立っとるんやろが。」

「…それは私が本宮に上がることですか?」

苦笑いで尋ねる紅の表情に曇りがかかる。

昨日帝がいる本宮から達せられた命には、各宮から側室として姫を差し出せとあったのだ。

西宮は紅以外に当てはまるものはいなかった。