聖と紅の父である東宮主もその役に就き、本宮に向かう姿を見送ったのが最後、再び会うことはなかった。

北宮以外が主のいない状態になり、実質全ての権利が本宮に集約された。

それが反対の意見が無くなった理由なのだ。

宮主たちは本宮にいる、それを盾に各宮の太子たちは宮主に上がることを許されず全てに置いての決定権を持てなかった。

宮主に会わせてほしいと願っても、文を送っても無駄だった。

宮主の許可なき婚姻も許されず、後継ぎは高齢となっていく。

二代目の帝が自らの息子を後継ぎにすると宣言したのは15年後のことだった。

三代続いて北宮から帝を出すというのだ。

高齢だった帝はその位を息子に譲り、さらには側室も与えると約束したらしい。

本妻が子を授かっていないことを理由に各宮から姫を一名ずつ差し出すように命じたのだ。

宮主を奪われた宮にはそれ以降に子は生まれてはいない。

西宮も同じで幼い頃に父を奪われ、正統な後継者は聖と紅しかいなかった。

つまりは紅が側室として本宮に上がることになるのだ。

宮主がいない太子たちに拒否権はなかった。

事件が起きたのはその時期だった。

父が本宮に行ってから暫くは母が西宮内外を取り仕切っていたが、無理がたたって病に倒れ亡くなったのは10年は前のことだ。

この日もいつものように母から教えられた西宮内の指揮を執っている紅の下に聖がやってきた。

聖は宮の外である領地を、紅が宮の中を主の代わりとして取り仕切るようになった西宮は比較的安定していた。

それでも主を奪われた領民たちの帝に対する怒りは治まりきらない。

また城下でよくない話を耳に入れたのか、険しい表情の聖はまっすぐに紅を目指して進んできた。

「ニノ姫、ちょっといいか。」

有無を言わせない表情と雰囲気だと従う道しか用意されていない。

「分かりました、太子。」

手にしていた書簡を侍女に預けて紅は聖の後を追い歩いていった。