やはり刺すような痛みは無い。

この闇夜に浮かぶ蛍の光ほども無い明るさに恋しい気持ちを抱くなんてほんの少し前には考えられなかった。

やがて立ち止まり空を見上げる。

もう、いいだろうか。

「…キオ。」

いつかカルサが語った仮の名前を呟いてリュナは涙を浮かべた。

さっきの出来事で痛いほど思い知らされたことがある。

それはどれだけ願っても、どれだけ自分が力の限り尽したとしても、この先もう二度とカルサの隣に並ぶことが出来なくなるという事だ。

「キオ。」

もしカルサがこの世界に来れたとしてもきっと玲蘭華のような輝きを放ちリュナは近付くことさえ出来ないだろう。

彼はいずれ玲蘭華の後を継ぐような存在だ。

少なくともリュナはそう信じていた。

それこそ皇帝の力を継いだ彼に相応しい称号だと思っていたのだ、たとえその期間が短かったとしてもその貴さに変わりはない。

「私に…出来る事は…。」

この遠い場所でもカルサの為に出来ることはあるのだろうか。

彼の言う最後の時を満たせる手助けが出来るのだろうか。

この乱れすぎる感情では何の考えも進まない、今だけは自分を解き放ちたい。

「私に…。」

リュナの脳裏に光の中で優しく微笑んでくれるカルサの姿が浮かんだ。

もう一度だけあの手を取りたかった。

耳元でカシャリと音を立てる飾りを握りしめリュナはその場にうずくまる。

恋しいという言葉さえも浮かばなくなった。