「何それ?手伝おうか?」

「ううん、大丈夫よ。」

永の手にある食器を眺めながら彼女は問いかけた。永は軽がると上げ下げをしてみせて問題ないことを伝える。

「だって空だもん。風神がやっと食べてくれたのよ。」

大変だったと今までの苦労を笑い飛ばしながら嬉しそうに話した。

「風神?」

「セリナの事ね?セリナって呼ばれるのが嫌みたい。だから風神。」

風神の正体に納得したのか、ふーんという声が小さく漏れた。

「もう話せると思う。後で一緒に風神に会いに行ってみる?ライム。」

「機会があれば、ね。」

ライムと呼ばれた女性は悩む事無く断りの言葉を渡して印象的な碧い瞳を光らせる。

「じゃ、頑張って。」

「ありがと。」

永に別れを告げライムはすれ違っていった。彼女の後ろ姿を見送ると永も再び歩き始める。

永は気付かなかった。

確かな足取りで歩いているライムの表情がどれだけ冷たくなっているかを。

深い碧い瞳は鋭く光り、ライムは静かに狙いを定めた。

その先は。

「風神、ね。」

氷の様な声が届いたのか城内を歩いているリュナは反応するように後ろを振り返る。

勿論、そこに誰かいる訳でも無ければ何かある訳でも無かった。

リュナが向かったのはさっきラバたちと出会ったあの城壁の場所、あの時の永が言ったように光を求めに歩いているのだ。