懐かしい。

そんな思い出をひっぱり出してきた事がきっかけになり、リュナはまた深い自分の世界へ意識を連れていった。

ロワーヌは言っていた。

風蝶の婆はアバサといって、かつての神官だった環明に仕えていたと。

ロワーヌと環明は確かな友情で結ばれ、オフカルスで共に暮らしていた。信頼できる環明にセリナを預けたのだと遠い目をしてリュナに告げたのだ。

この風の力は環明からの直接の贈り物。

考えが深まるにつれてリュナの手は動かなくなっていき、しまいにはすっかり止まってしまった。

リュナの中でまた新たな疑問がいくつか生まれてくる。

ロワーヌの子供だと打ち明けられた時は頭に血が上り冷静にはなれなかった。

しかし冷静になった今、告げられた事を整理していくと分からないところがいくつか出てくる。

太古の因縁はこんなにも身近で時空の歪みを生み出していた。

カルサはその全てを終わらせようとしている。

きっと今頃はもう、セリナが誰でどういう人物かは分かっているだろう。そう考えるとリュナの気持ちが落ちていった。

「風神?」

心配そうに永が問いかける。その声をきっかけに何事もなかったように再び食べ始めた。

窓からは僅かながらもオフカルスの光が差し込んでくる。

このくらいの光であれば特に影響がないのだろうか、身体の異変は感じられなかった。

それともさっきまでの強い衝撃のせいで感覚がおかしくなっているだけなのかもしれない。

考えを深めながらも黙々と食べ続け、ようやく空になった器を永に差し出した。

「ごちそうさま。」

やはり微かだが笑みを見せたリュナに永は心を踊らせる。