「彼女は既に亡くなっています。」

「亡く…？」

貴未の視界が一瞬にして真っ暗になった。

風の音が大きく耳の中でこだまし、その音は貴未の心までもかき回して身体の自由を奪っていく。

貴未からは言葉も出ない。

ただ複雑な面持ちで見つめる男に、そのまま視線を返すことしか出来なかった。

希望の光はもう消えてしまっていたのか。

予想はしていた筈だ、しかし淡い期待と言いながらもそうであるという希望が根拠のない自信に守られていたのだ。

それが見事に打ち砕かれて心身共に大きく揺れている。

時間が経つにつれて止まっていた思考が動きだし色々な思いが駆け巡ってきた。

いくつもの記憶、思い出せば思い出すほど切なさが込み上げてくるだけだ。

「…そう、ですか。マチェリラは…。」

何か答えなければいけない、そう思ったがそれ以上言葉が続かずに口を手で覆った。

どこを見ているか分からない目は次第に涙を浮かべる。

分かっていた事だった、覚悟はしていた筈なのに、いざ自分の身に振りかぶってくるとこんなにも心は脆い。