そしてこれで日向の存在を消した理由も、日向自身に記憶がない理由も確信が持てた。

「簡単に太古の記憶を取り戻せた沙更陣も日向の記憶は取り戻せなかった。これだけ日向の話をしてもだ。」

カルサは剣の柄に結ばれているリュナの飾りに触れながら自分の感情を探す。

どれだけ大切な仲間を得ても、どれほど愛おしくて仕方がない相手を見付けても決死して到達することの無かった究極の感情に吐き気がしそうだ。

この身体にその血は流れていない。

しかし魂に刻まれた遺伝子がじわりと歪んでいくの怖かった。

「一つの簡単な思いからよくぞここまで複雑な歯車を作れたものだ。…いや至って作りは簡単なものか。…解き放つための唯一の鍵は俺の命だ。」

さらりと流れるように出た言葉はとても流せるような内容ではない。

すぐに言葉を返さなければそうであると肯定することになってしまう、しかし何を言っていいか分からずに沙更陣からは声が出てこない。

やがて生まれた沈黙に重たい空気が二人を包むが先にそれを破ったのはカルサだった。

そんなことは今更な話だと堂々たる様子は流石なものかもしれない。カルサはもう迷っていないのだ。

「なあ沙更陣。リュナがセリナだと、いつ分かった?」

突然変わった話題に多少戸惑いつつも内容が内容なだけに沙更陣の反応は良かった。

その答えの先に何があるのだろうか。

そんな事が頭の中に過ったがカルサに対して最早何の隠し事も誤魔化しもいらないと自分の中で決めていた。

「一目見て、すぐに。」

初めて出会った時の事を思い出しながら沙更陣はその表情を和らげる。

影も形も見たことが無かったわが娘、沙更陣が持っていた情報は環明が信頼を寄せる人物に預けたという事とセリナという女の子であることだ。

風神の話が出たときからもしかしたらとは思っていた。